ひるねゆったりの寝室

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『咲-Saki-』のアニメは原作通り「ではない」?

突然だが、『咲-Saki-』クイズ。
どちらが正しいセリフだろうか。

「ごめんなさい 私は麻雀 それほど好きじゃないんです」
「ごめんなさい 私は麻雀 好きじゃないんです」

咲-Saki-』の序盤。主人公である宮永咲が、のちにライバルとなる原村和に麻雀をもう一度打って欲しいと請われ、返したセリフである。雨の中、傘を差して歩く咲が、ずぶ濡れの和と向き合う、詩情に溢れた一場面だ。

さて、上述のセリフだが、実は両方とも正しい。

それほど好きじゃないんです」が原作漫画。
「好きじゃないんです」がアニメである。

咲-Saki-』は基本的に原作漫画に準拠しているが、細かいところで変更がなされている。麻雀描写や説明が詳細になっているのに加えて、そうでないセリフも微調整されている箇所が多い。
例えば原作で「圧倒的な力量差だったら?」となっているセリフは、「圧倒的な力量差があったとしたら?」と変更されている。
こういったように、丁寧に言い換えて飲み込みやすくしているわけだ。

だが、「それほど好きじゃない」を「好きじゃない」とするのは、そういった変更とは異なる。しかも、この場面の周辺は、1話の中でも際立って大きな変更がされているのだ。意図があると考えるのが自然だろう。

この一連のシーンでの大きな変更箇所は、下記の通り。

・咲を追って、立ち入り禁止の札を飛び越える和の描写が追加。
・和が咲にぶつかり、傘が飛ぶ。和が咲に抱きつく描写が追加。
・咲が階段を降りていく。
(原作では最初から咲が階段下にいるため、二人がぶつかるイベント自体が発生しない)

そして、咲が階段を降りて行ったところで、

和「もう1回…もう一局私と打ってくれませんか…」赤字は原作からの変更箇所)
咲「ごめんなさい 私は麻雀 好きじゃないんです

というやりとりが発生するのである。

二人の会話がとてもドラマチックになっているのが分かると思う。
そして、「咲と和」の関係に絞って1話と2話を見ると、随所にそういった変更点があることが窺える。

中でも2話における、川縁での咲と和の会話は、先述の雨のシーンほど大胆ではないものの、セリフの印象が変わるような変更がなされていた。

 

・原作でのやりとり

咲「私にとって、麻雀はお年玉を巻き上げられるイヤな儀式にすぎませんでした。でも今日は原村さんと打てて嬉しかった」
和「…なんだって勝てば嬉しいものですよ」
咲「ちがうよ。相手が原村さんだったから! 家族が相手の時と違った感じで難しかったし…楽しかった!」
※句読点は読みやすさを考慮して私が追加した。


・アニメでのやりとり

咲「私にとって麻雀は、ずっと家族でするものでした。そしていつもイヤな思い出と一緒でした。勝っても負けても怒られるだけの儀式。それが私にとっての麻雀だったんです。でも、今日は違った。原村さんと麻雀を打ってると、なんだか嬉しい気持ちになったんです」
和「…なんだって、勝てば嬉しいものですよ」
咲「ううん、違うよ。相手が原村さんだったから。原村さんがいたから、家族が相手の時と全然違う感じで、とても難しかったし、そして、楽しかった!」
※ここで咲が和にぐっと近づき、和が顔を赤らめる。

 

全体的に、咲のセリフが長くなっているのがわかると思う(麻雀によって巻き上げられた対象がお年玉→お菓子に変更されているため、それに合わせたシーンでもある)。
長く詩的なセリフに変わったことで、咲にとって和がいかに衝撃的な存在であったかがより強く感じられる。
この会話に至る前に、1話と対になる形で、今度は咲が立ち入り禁止の札を越えて和に会いに行く描写がある。そういう意味でも、咲から和への思いがほとばしっている場面だ。

これは和から咲への感情にも言えることで、咲がいるであろう校舎を見つめたり、咲を思って風呂やベッドで思い悩む姿が追加されたり、和なりの強い思いが細かく描かれている。

 

加えて、2話のラストで咲が麻雀部に入る展開も、原作からアレンジが施されている。
このアレンジは慎重な手つきながら結構大胆で、二人の出会いの場面から既に手が入っている。具体的に見てみよう。ここも赤字部分がアニメでの脚色だ。

・1話冒頭の出会いの場面
本を読んでいる咲が木から落ちてくる花びらに意識を向けた後で、和に気づく。

・2話の後半、咲の家での場面(※シーン全体がアニメオリジナル)
雀卓を見た後、自室に戻った咲。
机の上に置いてあった、1話冒頭で読んでいた本を開く。すると、花弁が挟まっているのを見つけ、その花びらから和のことを思い出し「よし」と何かを決意する。


・2話の最後、入部意思を表明した咲と、和のやりとり
咲が入室すると、和が立ち上がる。
入部したいという咲の言葉に和は明確に笑顔を見せる。(※原作では座ったままで表情変化なし)
咲「私、原村さんともっとたくさん打ちたいんです」
和の顔から笑みが消えて「えっ」と驚く。(※原作では和の描写なし)
咲は笑顔で宣言(※原作では真顔)
咲「もっと原村さんと打って、そして、もっと麻雀で勝ちたいんです…!!」
(※以下、アニメオリジナルの追加描写)
和はムッとした表情に変化。
和「そこに座ってください。今日は、勝たせませんよ」
咲「はいっ!」

咲が入部するにあたって、原作でもアニメでも「姉(宮永照)が麻雀の全国大会に出場するらしいから自分も出たい」という動機が設定されており、それ自体に変更はない。しかし、アニメにおいては、その最後の一押しとして、「和がいたから麻雀部に入りたいと思った」というアレンジが加えられている。
咲-Saki-』のアニメ版は、咲と和の心のつながりをより重視した作品だと言えるだろう。

今回はセリフを中心に変更箇所を追ったが、二人がいる場所が変更されていたり、該当が点く演出が追加されたり、細かく見ていけばキリがない。
一見、原作通りに見えるからこそ変えた意図が浮かび上がる、面白いアニメである。

 

原作漫画第1巻

咲-Saki- 1巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

 

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