ひるねゆったりの寝室

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『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリーション』を参観した

『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリーション』は『交響詩篇エウレカセブン』シリーズの締めくくり。いわば卒業式である。その式典に出席、もとい参観してきた。

エウレカセブン』シリーズとの付き合いは浅い。
遡ること2年前。2019年の冬に、「『ANEMONE』という映画が面白いぞ!」という評判を目にして、興味を持ったのが最初だ。
そもそも『エウレカセブン』に触れたことが全くなかったので、せっかくだし、と思ってTVシリーズ、『ポケットが虹でいっぱい』、『エウレカセブンAO』、『ハイエボリューション』の2作……を一気見した。
ボーイ・ミーツ・ガールが好きなのもあって、見始めたら止まらない。『EUREKA』を観るにあたって再見して、その印象はますます強まった。
特に第26話「モーニング・グローリー」を観ている時の「ついにこの時がきた!」という興奮は、何にも替え難いものがある。

しかし、『EUREKA』を劇場で観るに至るまでモチベーションを高めてくれたのは、『ANEMONE』だ。オリジナルストーリーゆえの先の読めなさ、エウレカアネモネをそれぞれ新解釈したキャラ造形、そして二人が合流するクライマックスの大逃走劇は、「劇場でこれを観たかった」「次こそは映画館で!」という気持ちを作り出したのだ。『EUREKA』が英字タイトルであることも、『ANEMONE』の直接的続編を観られると直感できてウキウキだった。

『ANEMONE』の終盤の並行宇宙展開(パンフレットによると仮想世界)を観て、最終作もメタフィクション性を帯びるだろうと思っていた。実際、それはその通りだったのだが、私にとってさらに面白かったのは「鋼鉄の魔女・エウレカ」とアイリスという少女の旅路であった。
クレジットカードとSIMをひたすら折り続ける二人の旅路は、そのディテールが強い説得力を持っており、『ANEMONE』以上に現実世界の質感を織り込んでいた。『ANEMONE』が夢から覚める話を描いていたから、それを演出レベルで受け継いだのだろう。

こうして現実世界の中に生きるエウレカを観ていると、『交響詩篇エウレカセブン』の世界がいかにファンタジーであったかが分かる。デューイ達が抱いた「偽物であることへの葛藤」も、ブルーアースの世界に触れたことで生まれたものだったのかもしれない。
また、エウレカも過去作ではヒロインというポジションを与えられた「キャラクター」であり、今作はそれへのカウンターにも見える。『エウレカセブン』の流れを汲むというより、さらに一枚上のレイヤーから俯瞰するような作品で、間違いなく完結編の香りがした。

そんな卒業式。付き合いの短い自分は「出席」ではなく「参観」という心持ちだったけれど感動した。短期間といえど、シリーズを2回も観たのだ。それなりに愛着も湧くし、人生の次のステージに立とうとするエウレカの姿を見れば涙も出る。筋トレと酒以外に逃げるもののない孤独な10年という背景も、かつての彼女を知っているだけに泣かせるものだった。ガールから魔女に、そして人間へ。こんな卒業式を体験できるとは、なんて素敵な作品なんだろう。

さて、『EUREKA』を観てパンフレットまで目を通すと、『ハイエボリューション』シリーズの謎が大体解ける(はっきりしないこともあるが)。だけど、一つ気になっていることがある。『ANEMONE』の終盤、エウレカはこう述懐した。

でも何度夢を見ても何度やり直してもあの人は生き返らなかった。
シルバーボックスを使って夢を見れば夢は現実化するはずなのに
レントンは生き返らなかった。

エウレカの回想を見るに『交響詩篇エウレカセブン』も彼女の「夢」の一つであるはずだ。なのにレントンが死んだということは、『エウレカセブン』のストーリーの後で(あるいは続編である『AO』の後で)不幸な死を迎えたのだろうか?
ひょっとするとそうではなくて、『交響詩篇エウレカセブン』は(世に出ている他の『エウレカセブン』の物語も)、エウレカが見ることのできなかった「レントンが死ななかった世界」だったのでは?
あくまでも無根拠の妄想だけれど、やはりあの世界のレントンエウレカには幸せであって欲しい。

『EUREKA』をはじめとした『ハイエボリューション』シリーズは確かに、『エウレカセブン』を生まれ変わらせた。その一方で、初代TVシリーズの魅力を絶対的なものにもしたのだと思う。
卒業式とは元来そういう性質のものだ。卒業式が学生生活のピークでした、という人は多くないだろう。あくまでも節目の一つであり、振り返ってみればこの時期が一番充実していた・辛かった、などと思い返す機会だ。『ハイエボリューション』シリーズは、まさにそういった「卒業式的連作」だったのである。

 


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