ひるねゆったりの寝室

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倦怠期映画『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』

2017年公開の『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』を4年ぶりに観た。当時から思っていたのだけど、これは倦怠期映画だ。
長く付き合った結果、刺激のなくなったカップルが、ふとしたきっかけで出会った頃のときめきを取り戻してエンディングに至る。そういう作品だと捉えるのが、個人的にしっくりきた。そのカップルとは、言うまでもなく主人公キリトと、メインヒロインのアスナである。

序盤、世間で流行しているAR(拡張現実)型情報端末「オーグマー」に対して、二人の反応はくっきり分かれる。VR(仮想現実)を好むキリトはあまり乗り気でなく、アスナは周囲の友達とともに満喫している(なんと、物語開始時点で、いつものパーティの中で一番ランクが上。かなりのめり込んでいるようだ)。
と言っても、アスナが多少強引にキリトを誘っても喧嘩に発展することはないし、その後キリトが「やっぱり俺はいいや」という態度をとっても許容される。ある意味理想的な関係だ。

ただ、二人の関係はどこか行き詰まっているようでもある。それが特に表れているのが、映画前半の、キリトとアスナがALO(アルヴヘイム・オンライン)の家で会話する場面だ。他愛もないやり取りの中でアスナが「お母さんが、キリト君に会ってみたいって」と言うと、キリトは「ああ……まあ、そのうちにな」と煮え切らない返事をして、二人の間に若干気まずい沈黙が流れる。同席していたユイが沈黙する二人を不思議そうに眺めるカットが入っているということは、意図的にそういったシーンとして演出しているのは間違いない。

ここに限らず、映画内でのキリトとアスナには温度差がある。
前述のARに対しての考えの違いも、アスナは何もただミーハーなわけではなく、オーグマーで貯めたポイントでキリトへの贈り物を買いたい、という動機があって積極的にプレイしている一面がある。倦怠期だとは言っても、アスナの方はだいぶキリトのことを大事に思っているのだ。
キリトの方も心の奥底では彼女を大事に思っているのだろうが、深く考えている様子はない。むしろ、オーディナル・スケールとSAO(ソードアート・オンライン)の関係や、自身の進学先への興味が勝っているようである。
そんな二人の関係が、アスナの記憶喪失を境に変化し、今度はキリトからアスナへの強い思いが描かれることになる。アスナの記憶を取り戻すべく、キリトは苦手だと言っていたARゲームを駆け回り、あっという間に強くなっていく。

ところで、なぜアスナが常にキリトを思い続けることができたのかというと、それは日記を通して思い出を反芻していたからだ。彼女は日記を読み返すたびにSAOでの出来事を思い返し、感傷に浸っていたのだろう。アスナはゲーム内での結婚を重く捉えていて、だから母親にキリトを紹介することにも前向きなのだと思う。

……という具合で、キリトとアスナの二人の心情を丁寧に追った作品なのだが、後半は惜しく感じる場面もある。映画のクライマックス手前、キリトがアスナの部屋を訪れた際、アスナはそこで「SAOでの記憶がなくなっても、キリト君への気持ちは変わらないから」という結論を出してしまうのだ。
それはまだ早い! アスナがラストバトルに参加するときにそのセリフはとっておいてくれ!!

しかし、そうなった理由も分かる。終盤に「記憶がなくなっても気持ちは変わらないから」という結論を持ってきてしまうと、アスナが記憶を取り戻す展開が邪魔になってしまうのだ。しかし、このセリフ自体はどこかで言っておかないと、キリトとアスナの絆の深さを示すことはできない。記憶がなくなったら恋も冷めるかも、なんて本末転倒もいいところだ。それゆえ、クライマックスよりも手前に、キリトを一念発起させるセリフとして配置されている。

だがその結果、今度はアスナの描写に不自然なところが出てしまう。自分なりの結論を出して吹っ切れたはずなのに、何故かラストバトルで怯え出してしまうのだ。作中のセリフによると、それは「死の恐怖」によるもの。つまり記憶喪失の恐怖とは別物の困難であり、それを乗り越えることで本来の力を取り戻す。矛盾してはおらず、筋は通っているのだが……それでも、取ってつけた感がどうしても否めない。

そこを除けば、エピローグの流星群の場面も倦怠感カップルムービーとして、非常に納得のいくエンディングを迎える。アスナはようやくキリトにプレゼントを渡すことができ、そしてキリトは彼女の母と会う決意を固めるのだ。
初めてアインクラッドで流星群を眺めた時のように、二人が互いに同じ重さで思い合う状態に戻ったと言える。
いや、アインクラッドではアスナから手を重ねるよう誘っていた。一方で、エピローグではキリトの方からアスナの手を握る。ということは、二人の関係はアインクラッドでのバカップル時代よりもさらに進んだものになったのではないか。
親への挨拶を済ませたとなると、次は結婚。最初の劇場版が倦怠期だったなら、次の劇場版はマリッジブルーか? キリトとアスナの未来が気になるばかりだ。

とりあえず、『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』でバカップルになる前の二人を見に行こう。

劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-