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どうなる? 細田守最新作『果てしなきスカーレット』見どころ予想

映画監督・細田守の最新作『果てしなきスカーレット』の公開が発表された。発表されたのはタイトルと、スーパーティザービジュアルと呼ばれる一枚の絵と、会見で触れられた断片的な情報のみ。まだまだ不明なことばかりだが、忘れないうちに勝手に期待と不安を書いちゃおう! と、テキトーに「ここが見どころになるはず」という予想を書いておく。

 

ポイント1:舞台は日本ではない

これまでは夏の日本を舞台にしてきましたが、今回はそうではない。日本人ではない主人公で、決して平坦ではない世界で生きているような人。さわかやな入道雲などはないと思うんですが、最終的にいいところに着地する物語だと思っている。ぜひ期待していただけたら。

細田守監督最新作『果てしなきスカーレット』2025年冬公開が決定!製作発表会見で「これまでで一番大きなテーマに挑む」と意気込み

  https://moviewalker.jp/news/article/1234944/

 

細田作品において「実在する土地」は重要な要素だった。作中で地名が登場するか否かにかかわらず、リアリティのある背景美術を描き出すにあたって、多くの作品でロケハンを行っていることが各種書籍やWEB記事で語られている。

なぜそういった方針を採るのかについては、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』の頃に既に述べられている。

例えば、東京を舞台にするとしたら、架空の東京は作れないでしょう。「東京」という記号を使う以上は、そのイメージをひっくるめて、映画の要素として使うわけだから。「島根」も同じ事です。
(中略)

僕の場合、漠然とした「田舎」じゃなく、何県のどこそこ、っていうリアリズムにはこだわりたいけど、それはあくまでも記号として伝えるためなんです。

アニメスタイル第2号)

 

最新作『果てしなきスカーレット』の舞台が実在する海外の土地なのか、架空の世界なのかはまだ判然としない。ただ、「現実ではないような、厳しそうな世界」という言葉が出てきたり、「とある国の王女が、厳しい世界を旅する」と説明したりしているのを読むに、古い時代の外国であるとは思えない。

もし架空の世界であったなら大きな冒険となる。原作漫画がある『ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』を除くと、細田作品で異世界を舞台にしたものは『バケモノの子』だけ。その『バケモノの子』も、現実の渋谷との対比が強く感じられる内容だったため、完全な異世界ファンタジーではない。

まだ全編架空世界と決まったわけではないものの、どういうビジュアルが作られるのかが気になるところだ。

 

ポイント2:細田守の「次の10年」

監督は、10年単位で作品作りを考えていると感じています。『時かけ』のとき、「3本は同じスタッフで作る」と言っていたのですが、これはとても合理的だと思いました。アニメは完成するまで時間がかかるので、1本作るのに3年、3本作ると10年。映画を取り巻く環境も人材も、10年経てばがらりと変わります。10年違えば作り手のセンスも変わってくる。ですから、この夏の『バケモノの子』は、細田監督の次の10年の第1作目。ものすごく楽しみにしています。

(「細田守スタジオ地図の仕事」奥寺佐渡子のインタビュー)

時をかける少女』から『おおかみこどもの雨と雪』が、いわばチームの時代。キャラクターデザインは貞本義行、脚本は奥寺佐渡子が務め、監督はもちろん細田守。時期は前後するが『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を手掛けた超平和バスターズのように捉えられていた時期もあったはずだ。

それが『バケモノの子』からはキャラクターデザイン職がなくなり、脚本は細田自身が単独で執筆するようになる(厳密には『バケモノの子』では奥寺が脚本協力としてクレジットされている)。ここからが、いわば作家の時代。

おおかみこどもの雨と雪』の頃には作家性とまでは断言できなかったものが、作を重ねることで変化し、「家族を描く映画監督」として世評と共に定着していく。一見家族ドラマが中核でなかった『竜とそばかすの姫』でも終盤では大きく扱っていて、切っても切れないテーマなのだと思う。

最新作『果てしなきスカーレット』は敢えてそこから離れるのか、それとも重要なテーマとして深めていくのか、この10年を占う1本になるだろう。

 

ポイント3:映像の技巧

「一見、ストーリーボードやコンセプトアートに見えるかもしれませんが、この絵がそのまま動く前提で頑張っている」といい、「1作ごとに壁を乗り越えてきたが、今回の壁はルック(見た目)ですね。日本のセル画でも、ハリウッド的なCGアニメでもない、まったく新しいルックでアニメーションの可能性を広げたい」と意欲を燃やす。意気込みの背景には、前作「竜とそばかすの姫」で挑んだ手描きアニメとCGアニメの融合に対する、確かな手応えもあると語った。

細田守監督、4年ぶりの最新作「果てしなきスカーレット」25年冬公開 全世界配給も決定

  https://anime.eiga.com/news/122877/

「この絵がそのまま動く」という言葉をそのまま捉えると、キャラクターの手描き感を重視しつつ、背景は幻想的に……というところだろうか。手描きの「線」の良さを追求した作品というと『かぐや姫の物語』がぱっと思い浮かぶが、大変な労作であることは周知の事実。『果てしなきスカーレット』がその方向にいくのかどうか……。

『竜とそばかすの姫』もまたチャレンジの多い作品であった。ルックの部分で言えば、画面がシネマスコープサイズになったこと、背景が完全デジタルに移行したこと、CGパートの比重がとても高いこと、の3つが代表的だ。

今回もシネマスコープサイズ制作だとすでに発表があった。IMAXをはじめとするラージフォーマット形式での上映が定着し、視界いっぱいに映像が広がる没入感を観客が求めている時代……なのか? 個人的に、『君たちはどう生きるか』が「あ、ビスタなんだ」と少し物足りなかったのも事実(最初の10秒くらいのものだが)。

ひとつ気になるのは、キャラクターが影無し作画ではないかもしれない点だ。ティザービジュアル通りであれば、ハイライトも当たるし、影もある。これだと従来のセルアニメに近づくように思うが、どう新しくなるのだろうか。水彩……は言い過ぎかもしれないが、色彩も手で塗ったような質感にする、というのが今の私の仮説である。

 

ポイント4:音楽は誰なのか

作画やプリプロダクションにおけるスタッフがある程度共通している一方で、細田作品における音楽はたびたび変わる。宮崎駿にとっての久石譲押井守にとっての川井憲次庵野秀明にとっての鷺巣詩郎新海誠にとっての天門やRADWIMPS……というような存在が定まっていないのだ。

おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』の3作を高木正勝が担当したことでタッグが固まったのかと思いきや、『竜とそばかすの姫』では新たに岩崎太整を迎え、さらに3人の音楽家、歌唱曲にはさらに別のアーティストが参加して……とまったく別の方向に舵を切った。

主題歌アーティストも、強いて言えば山下達郎が複数回起用されているが、細田守のイメージの一翼を担っているかというと微妙なところ。むしろ『時をかける少女』の主題歌/挿入歌を手掛けた奥華子のほうが未だにファンの間では印象深いように思う。

『果てしなきスカーレット』では誰が起用されるのか、まったく読めない。

 

ポイント5:最も大きなテーマ

今の段階では言いづらいのですが、「生と死」にも踏み込んでいくような大きなテーマになると思います。だからこそ、主人公には乗り越えて、最終的な場所にたどり着くような人であってほしいと思いながら、スカーレットと言う人物を描いています。

(「果てしなきスカーレット」製作発表会見  

  https://www.toho.co.jp/movie/news/hateshinaki-scarlet_241223

「生と死」というと、細田作品では『サマーウォーズ』でのキャラクターの死が連想される。当時、自身の作品ではキャラクターを殺したことがなかったという細田が、悩んだ末に現在の展開を選択したというエピソードだ(PLUS MADHOUSE03 細田守)。

ここが分水嶺だったのか、次作以降では大切な人の死が物語を大きく動かすようになっていく。娯楽作品としての爽やかさが徐々に失われていくのも、細田作品のフィルモグラフィを追っていくとよく分かる。(そういう意味では『未来のミライ』が高度なことをやっていて、直接死を描くことなく、命が次代へと継承されていく過程を見せていた。)

それらの既存の作品よりもハードであるということであれば、主人公が誰かの命を奪ってしまったり、あるいは惨たらしい死が描かれたり……という表現が入るのでは、と思う。

 

細田監督の映画哲学のひとつには、「映画は公共の利益に適うべきものである」という考え方があります。細田監督の映画とは、たくさんの子どもや大人が一緒に集えるような「公共物」でありたい。

細田守スタジオ地図の仕事」齋藤優一郎のインタビュー

僕は東映にいて、アニメーションは子供が観るものという刷り込みがあるんですね。そのように考えたとき、作家主義的なものより公共性が先に来るべきだと。それを外しちゃうんだったら、作らなくていいよってなっちゃう

細田守是枝裕和が“いい父親”東映動画テレビマンユニオンについて語る

 https://natalie.mu/eiga/news/193932

以前から目指していた「たくさんの子どもや大人が楽しめる作品」という枠組みからは大きくはみ出すように思えるが、果たしてどういった作品になるのか、期待半分・不安半分である。

 

おまけ:

サマーウォーズ』が企画中の頃、青年マンガを原作とした企画も検討されていたという(PLUS MADHOUSE03細田守)。今や劇場オリジナルアニメ映画の旗手と言えるが、もしこのときマンガ原作作品を手掛けていたら違った未来もあったのかも……? そしてそのマンガとは何だったのか……? 永遠の謎である。