『花咲くいろは』を観た
2011年のTVアニメ、『花咲くいろは』を観ました。
ひとつの境地に達しているとか、何か尖った描写があるとか、
そういったタイプの作品ではありません。
むしろ、旅館を題材にした、
オーソドックスな「お仕事ドラマ」を貫徹している、
そういう作品だと思います。
けれど、もちろん他の「お仕事ドラマ」と同様に、
このタイトル独自の個性があります。
そして、それがオーソドックスなドラマと
融和しているのが印象的でした。
この作品にとっての(お話の上での)個性は、
「キャラクターの掘り下げ方」だと思います。
2クールあることを活かした群像劇ですから、
当然、各キャラの当番回というのがやってきます。
第7話の巴回や、第18話の菜子回などがその代表ですよね。
個人的に面白く感じたのは、
そこで語られる各々のドラマが、
意外に過去や出発点までは掘り下げないことでした。
菜子のように私生活まで語られるキャラクターは少なく、
リアルタイムの自分自身と向き合う方が
この作品では主流に思います。
結名が「旅館の仕事は大変なだけ」と言っても、
「彼女から見たふくやの仕事」などは映像で示されず、
セリフや過去回の描写から推測することになります。
掘り下げがメインとなっていた劇場版でも、
緒花の父がどうして亡くなったのかまでは描きません。
主人公の緒花ですら「孝一との出会い」は描写が無いですし、
明確に「ここまでは描く/ここからは描かない」という
ラインがあったのではないか……と勝手に想像しています。
では描写不足なのかといえばそんなこともなく、
喜翆荘を舞台にした「お仕事ドラマ」としては、
過不足なく要素が揃っているといえます。
もっと言えば、緒花以外のキャラクターの掘り下げ方に、
偏りが出なかったことで、
喜翆荘という「場」を描くことに成功しているように思いました。
あくまでも現在の彼らと喜翆荘の関係に描写を絞ることで、
「喜翆荘を舞台にした群像劇」として物語がまとまり、
そして、そのさっぱりした空気感が、
『花咲くいろは』だけの個性を生んでいるのです。