ひるねゆったりの寝室

アニメとか漫画とか映画とかの感想を書いていきます

『TARI TARI』を観た

TARI TARI Blu-ray コンパクト・コレクション

2012年放映のTVアニメ『TARI TARI』を観ました。

この前『花咲くいろは』を観たので、
いざP.A.WORKS強化旬間、というわけで観ることにしたのです。
私自身は合唱経験はクラス合唱や音楽の授業程度ですが、とても好きでした。
真面目に歌わない人は最初から練習にこないでほしい、と思っていたぐらいです。
今でもカラオケで合唱曲を歌ったりします(一人で)。

 

さて、そんな『TARI TARI』ですが、合唱というメイン要素はもちろんですが、
「モラトリアム」を鮮やかに描いた作品だという印象を受けました。
それは「合唱時々バドミントン部」が常々「お遊びだ」と貶されるような部活である、
ということが端的に示しています。

・コンクールにも参加しない(というか出来ない)
・初心者ばかりでしかも一年足らずの活動、
・(設立時点では)誰も音楽の道に進むつもりがない。

まるで腰かけと言わんばかりです。
普通科高校ならそういう部活も当然ありますが、
白浜坂高校には音楽科があるため、将来に結びつかない音楽系の部活は、
それだけで異質な存在です)

そして部員たちもまた、迷える生徒が集まっています。
中でも沖田紗羽はモラトリアム要素を最も背負ったキャラクターでした。
親の庇護の下で、親の反対する道を目指す反抗精神。
難しい職業を夢見る気質。
未来が決まっていない時期だからこそのキャラ造形に思います。
彼女が部活を一つに絞らないのも、それを表しているのかもしれませんね。

はっきり言ってしまえば、騎手という彼女の将来の目標にとって、
今の学校生活も、合唱部の活動も、全く役に立つものではありません。
しかし、彼女が最後に進路を選んだ時、その背中を押したのは
間違いなく合唱部の思い出であるはずです。

気にしたり 思いっきり駆け出したり
画像は紗羽に転機が訪れる第8話のもの。

ついに迎えた最終回。
エンディングテーマに入る前の、実質的な本編のラストシーンを飾るのは、
クレジット上は3番目にあたる紗羽です。
何故、最後海外に出ていき、見送られる役が彼女なのか。
それは音楽面での主人公が和奏なら、
モラトリアム面での主人公が紗羽だったからにほかなりません。
彼女の人生を年表にしたら、きっと合唱部での一年は、
ちょっと短い遠回りに見えるはずです。
でも、それに大きな意味があったんだ、と力強く歌い上げる『TARI TARI』は、
結局部活が将来に結びつかなかった私にとって、非常に刺さる応援歌なのです。

 

 

『花咲くいろは』を観た

第1話 十六歳、春、まだつぼみ

2011年のTVアニメ、『花咲くいろは』を観ました。

ひとつの境地に達しているとか、何か尖った描写があるとか、
そういったタイプの作品ではありません。
むしろ、旅館を題材にした、
オーソドックスな「お仕事ドラマ」を貫徹している、
そういう作品だと思います。

けれど、もちろん他の「お仕事ドラマ」と同様に、
このタイトル独自の個性があります。
そして、それがオーソドックスなドラマと
融和しているのが印象的でした。

 

この作品にとっての(お話の上での)個性は、
「キャラクターの掘り下げ方」だと思います。
2クールあることを活かした群像劇ですから、
当然、各キャラの当番回というのがやってきます。
第7話の巴回や、第18話の菜子回などがその代表ですよね。

個人的に面白く感じたのは、
そこで語られる各々のドラマが、
意外に過去や出発点までは掘り下げないことでした。

菜子のように私生活まで語られるキャラクターは少なく、
リアルタイムの自分自身と向き合う方が
この作品では主流に思います。

結名が「旅館の仕事は大変なだけ」と言っても、
「彼女から見たふくやの仕事」などは映像で示されず、
セリフや過去回の描写から推測することになります。

掘り下げがメインとなっていた劇場版でも、
緒花の父がどうして亡くなったのかまでは描きません。
主人公の緒花ですら「孝一との出会い」は描写が無いですし、
明確に「ここまでは描く/ここからは描かない」という
ラインがあったのではないか……と勝手に想像しています。

 

では描写不足なのかといえばそんなこともなく、
喜翆荘を舞台にした「お仕事ドラマ」としては、
過不足なく要素が揃っているといえます。

もっと言えば、緒花以外のキャラクターの掘り下げ方に、
偏りが出なかったことで、
喜翆荘という「場」を描くことに成功しているように思いました。

あくまでも現在の彼らと喜翆荘の関係に描写を絞ることで、
「喜翆荘を舞台にした群像劇」として物語がまとまり、
そして、そのさっぱりした空気感が、
花咲くいろは』だけの個性を生んでいるのです。

劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME